よびごえ日誌


2022.10.20 【2022】よびごえ日誌 春こん、開始します。
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みなさん、こんにちは。小田です。
 
今日、いよいよ今年度の春こんの稽古を開始しました。
今日の稽古に向けて、会場をおさえたり、キーボードを運んだり、PCの準備をしてくださったり、本当にありがとうございます。
 
まずは、よびごえの稽古が感染拡大の場とならないよう、全員で注意を払いましょう。安全を確保し、安心できる場があってこそ合唱の活動を行うことができます。気になることや不安なことがあれば、誰かに相談することを忘れないでください。
 
ついに今日、自由曲が決まり、来週からどんどん譜読み・合わせを進めていきますが、今回の自由曲は、本当に悩みに悩みました。8月頭から悩みはじめ、ようやくこれでいこうと思えた曲に出会えたのは先週です。自由曲にするからには、その曲が本当に今のメンバーにとって良い学びに成り得るのか、その成立背景や楽譜を分析して、準備をしていました。
でも、今日、みなさんの顔を見て、良い曲を選ぶことができたと、この2か月が報われた思いです。選曲は本当に大切です。それは、これから皆さんと一緒に過ごす時間がどのようなものになるかを決めることに等しいからです。いま、よびごえメンバーと一緒に考えたい作品、そしてみなさんのもってる力が100%ではなく、120%発揮できる曲を探していました。
 
選曲の過程では、いろんな曲が頭をよぎりました。
せっかくなので、候補だった曲のうち、音源がオンラインにあるものについて紹介したいと思います。いろんな曲を知っておくのは悪いことではないので、もしよければみなさんも時間のある時に聴いてみてください。
 
 
“SUITE” de Lorca 全曲
作曲:E. Rautavaara
詩 :G. Lorca
 
以下の動画は混声版の演奏ですが、女声版も演奏される機会が多い作品です。女声版の楽譜の表紙には”児童合唱のための”と付されていますが、日本でいう、子どもたちのための作品のように希望に満ちた、明るいテーマというわけではなく、三善晃における児童合唱作品のように、この世界のリアルが真摯に描かれています。ここでは、いつでも”死”は私たちのことを見つめており、私たちの近くをうろうろしているということです。作曲者自身は「死と生の間に潜む、暗く、重苦しい内容を合唱作品として表現したかった」とのこと。言語は、スペイン語で歌唱されることが多いです。
 


 
 
 
「梟月図」より 青
作曲:鈴木輝昭
詩 :宗左近
 
2004年、僕が中学生のころのNコン高校の部の全国大会で安積黎明高等学校(福島)が自由曲として歌唱していた作品です。その時の衝撃がいまでも残っています。歌唱も大変に素晴らしかったのですが、「なんてすごい曲なんだ!!!」という作品に対する感動があり、鈴木輝昭を意識するようになったきっかけの曲のようにも思います。人の声が重なることで合唱になるわけですが、その重なり方によってこんなにも美しい空間ができるのかと、鈴木輝昭が楽譜の冒頭に書いてある「多層的に広がる色彩」の通り、まさに色が広がっているかのように僕には聴こえました。2群合唱による作品で、同時に女声12部で動く箇所があり、難曲と言えます。
 

 
 
 
「日本の民謡 第2集」より 会津磐梯山
作曲:松下耕
詩 :伝承
 
8人のソリストに加えて、ソプラノ、メゾ、アルトという通常の女声合唱団が必要な作品です。よびごえのメンバーは全国各地から集まっていること、また現在、福島出身のメンバーがいることから、この曲も候補に考えていました。この曲は究極的な〈チームワーク〉が求められる作品に思います。8人のソリストは、十六分音符ずつずれながらロングトーンすることで、音による背景を空間につくっていきます。難しすぎる曲なのですが、国内でこの作品に挑戦する合唱団は少なくありません。
 

 
 
 
「風の馬」より 指の呪文
作曲:武満徹
 
あまりに選曲に悩み、この曲のことも真剣に考えていました。せっかく昨年度は「第1ヴォカリーズ」を取り扱ったので、「指の呪文」に挑戦できれば、なにかが解決するような気もしました。「第1ヴォカリーズ」のモティーフが「指の呪文」でも使用されていたりと、作品間の関連性はあるのですが、実態はまったく別の作品のように、個人的には捉えています。この作品を歌唱できる団体は、日本にはほとんど無いと思います(挑戦することは自由ですが・・・)。
 

 
 
 
「合唱のためのコンポジション 第7番」より マンモスの墓
作曲:間宮芳生
詩 :間宮芳生 
 
過去に、同じ曲集の1曲目「メンジョ」はよびごえで取り扱ったことがあります。その曲は、”かたつむり”の国内での異名を集めて詩として扱った作品です。”かたつむり”の異名と言えば、”でんでんむし”は有名ですね。他にも、”ミョウミョウ”、”マイマイドン”、”デデムシ”、そして”メンジョ”など、いろんな呼び方があるようです。「マンモスの墓」は曲集の終曲、3曲目として収められており、「マンモスがなぜ絶滅したのか」ということがテーマとして描かれます。結論、この詩では、マンモスは大きな体を維持するために、寝る時間も惜しんで草をむしゃむしゃ食べたのですが、睡眠欲と食欲の葛藤の結果、食欲を優先しすぎたがために〈寝不足〉によって絶滅してしまった、とのことです。「そんなわけあるかい」とツッコミたくなるような詩ですが、どんな理由であれ、動物が1種類、この世から恒久的にいなくなってしまうということはなんと寂しいことなんだろうと、この曲のことが頭をよぎるといつでも考えさせられます。「もっとたーべよっ」というソロがかわいい歌です。
 

 
 
 
Even when he is silent
作曲:Kim André Arnesen
 
Eric Whitacreのような響きの空間を味わえる作品を探していた時、この作品に出会いました。苦しい中での祈りが滲み出るような、単純な美しさではない作品だと思い、調べてみると、第二次世界大戦時の強制収容所の壁に残された言葉が詩として選ばれているとのこと。「I believe in the sun even when it’s not shining./I believe in love even when I feel it not./ I believe in God even when He is silent.」この詩を見たとき、心が震えました。when以下によって、believeの重さ、強さを感じます。こうしたシビアな作品はよびごえではあまり扱ってこなかったのですが、もしこの作品を、今のメンバーと一緒に考えることができたらば、一生の体験だろうとも思いました。
 

 
 
 
以上、音源がオンライン上にない作品もいくつか候補として考えていたので、もし興味がある方は個人的にお問合せください。
 
 
 
とにもかくにも、よびごえは春こんに向かって走り出しました。今回の選曲は、きっと、それぞれが自身の限界を超えることができ、新しい世界の見方、合唱の見方、仲間の見方ができる作品であると信じています。ここでの学びが皆さん自身にとって価値あるものになり、音楽教育を考えるうえでも貴重なものになることを願っています。
勇気をもって、あきらめずに、一緒に楽しみましょう。
 
それでは、また来週。

小田直弥