よびごえ日誌


2020.06.18 【2020】よびごえ日誌 vol.004
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こんにちは!B類2年の今城琴美です。
いつの間にか二年生になり三か月がたち、六月も下旬に差し掛かってきました。部分的にですが七月には大学に行ける兆しが見えてきて嬉しい限りです。よびごえも合唱はできていませんが、オンライン勉強会という形で、毎週密度の高い2時間を過ごせていることに感謝しています。
 
さて、オンライン勉強会もあっという間に第四回目となりました。
毎回行っている「作品を通した体験探求」ですが、今日は最初に、これへの取り組みをより深めるために、新たな視点やアプローチの仕方を小田さんからお話し頂きました。
この探求は、曲をみる角度を養うことを目的に行っていますが、曲をみる視点というのはどうしても固まりがちです。このように、作品に向き合うときの癖が出てきたというのはアイデンティティの表出と捉えると良いものでもあります。よびごえ勉強会の中では人との意見交換をする中で、他の方の視点を知ることが出来るのでそれだけでも一つの学びになるでしょう。ですが、もっと各個人が自分の中に様々な視点を持てるようにと、ドイツの歌唱力の定義(一例)を紹介していただきました。
 
私も自分の、曲をみる視点がいつも同じでもっと視野を広げたいと思いつつも、どのようにアプローチしてよいのか分からず困っていたので今回このお話をしていただけてとてもためになりました。確かに、このよびごえ勉強会の中では、他の方の考えをお聞きすることが出来るので最終的には様々な視点から曲をみることが出来ますが、実際に教師となって楽曲を扱う際には自分一人の視点から曲に向き合うこととなります。その時のためにも今から様々な視点を持っておくことは重要だと私自身も感じました。
 
ドイツの学校教育での声楽指導の指針を例に取り上げ、まずは楽曲探求の中で「歌唱技術の側面から見た困難箇所」を考える際に役立つヒントを示してくださいました。
・リズム(リズムの反復)
・音域(音域の広がり)
・音(転調への対応)
・声の発達(健康な声の響きと声量・発音)
・表現(曲想にあった声の使用)
・読譜(フレーズの終わりを見つけて歌唱)
・身体(一定の調整を保って歌唱)
・認知(聴いた音を真似、音の違いを認識して歌唱)
ドイツのとある教科書では歌唱力の定義としてざっくりとはこのように分類されています。
 
また「この曲を通して何を学んでほしいのか、合唱団にはどのような変化があってほしいのか」という、到達目標にあたる部分を考える際のヒントも示してくださいました。
・音楽の構造を理解して歌唱に繋げる
・歌うことと話すことの違いを考える
・声をどう使って歌唱を通した芸術作品を創出するかを学ぶ
・楽器としての声を知る
・感情と表現の関係を考える
・声と息の練習
・感情と声の関係を考える
・話し言葉による作品と韻律を持つ詞作品の違いを学ぶ
・人の声について知る、人の声でどのようなことができるか
日本では指導要領にもみられるように広い概念的な到達目標が多いですが、ここで出てくるような具体的なものをこのワークの中で到達目標に設定しても構わないとお話しくださいました。
 
小田さんが仰っていたように、ワークシートとの向き合い方、作品との向き合い方をここでもう一度考え直すきっかけとなりました。そして、自分の考えやすいテーマから考えるだけでなく、もっと外に目を向けて違う視点を持って取り組んでほしいという願いが伝わってきました。
このような学びのヒントをいただけたという意味だけでも今回はとても意義のある勉強会だったなあと私は開始10分で満足していました(笑)
 
 
【グループワーク】
「Zefiro torna」(F. Petrarva作詩/L. Marenzio作曲)
 
この曲はイタリアルネサンスの作品で、この曲を探求するうえで一番重要なポイントは楽譜の見方だというお話が最初に小田さんからありました。
今の音楽は耳で聞いて楽しむものとして親しまれています。これは古典派やロマン派の頃にも通じる音楽の在り方と言えるでしょう。ですがルネサンス期の音楽はそれだけではなく、「楽譜」そのものにも意味が込められていました。絵画的表現と言われるものが用いられ、音型やリズムが歌詞の意味に沿って作られたりしていたのです。
また、♭は音楽をまろやかにするという意味があるなど、ルネサンス期ならではの楽譜を見る時に持っておかなければならない知識もあります。これは当時の知識人にとっては楽譜を読むうえで共通認識されていた常識ですが、現代の私たちはこのような意味が込められていることを知りません。
このようにルネサンス期の作品を扱う際には、今とは違った楽譜の見方を知り、考えることが重要になります。そして子どもたちはここから何を学ぶのかということに焦点を当てながらワークに取り組みました。
 
先ほども書きましたが、この楽曲を取り扱う上で最も注目すべきなのは、ルネサンス期の楽曲であるということです。
二分の四拍子というなじみが薄い拍子が使われていたり、現代にはない表現記号が見られたりします。また、歌に適した旋律が発見される前の時代なので、今の私たちからすると歌いづらいと感じる部分もあります。ルネサンス期は記譜法や旋律など基本的な音楽のルールが築かれる段階であり、1602年のG.Cacciniの「Le nuove musiche」あたりから特定の様式の発展がみられるようになることを考えると、現代的な視点でルネサンス期の楽譜を見ることには危険性も感じます。
また韻律の美しさというのも特筆すべき点です。日本語の五・七・五のような音のリズムがイタリア語にもあり、当時の人は五音音節や七音音節など、音節によって流行というものも感じていたと考えられます。アンジャンブマンという、詩の意味の区切れを行末に置かず、次の行にまたがらせる方式をとっていたりもします。
このように当時の価値観が色濃く反映された作品を現代的な視点でとらえるのは難しく、イタリア=ルネサンスの文化や音楽についての知識や考え方を持つことが必要となります。現代の視点からアプローチできないことが子どもたちの学びにもつながるのです。
 
またこれはほかの曲でも実践できることですが、気付き・疑問を持った時にこれを深堀すると学習目標にすることが出来るというお話がありました。学習目標を楽曲の特徴から考えることで、この楽曲を扱うことで身に付けてもらいたい学びというのは見出すことが出来ます。
この曲を例に考えると、「転調が多い」という意見が出てきました。ここで、これはなぜなのか?を考えることが大切です。
調は感情とリンクしていて、それぞれの調が違う感情を表している、つまり転調が多いということは気分がコロコロと変わる曲だということが分かります。ではその感情の変化をどのように表現すればいいかというところまで思考を発展させることが出来るのです。
ルネサンス期やバロック期の音楽を扱うことは音楽の原点に立ち返るような学びができ、本質を再発見することが出来るとても重要なことです。そしてこれを学校で扱い、児童生徒に教えることを考えると、教員としての私たちはある程度の知識を持っていることが必要となります。小田さんや学芸大の先生方というプロフェッショナルが私たちの周りにはいらっしゃるので、学生のうちにもっとこの時代の音楽について学びを深めたいと思いました。
 
 
【個人ワーク】
「Jai Ho!」(A. R. Rahman作曲/Ethan Sperry編曲)
 
次に、個人ワークで扱った「Jai Ho!」はインドの映画音楽の一つで、ポップスを合唱編曲したものと言えます。ですがポップスと言っても私たちになじみのあるポップスではないので先週扱った「Pretender」とはまた違ったアプローチが必要です。
 
この曲は声だけで完成するのではない、総合芸術といえる作品で、動きが持っているエネルギーもすごく感じられます。そういった、総合芸術としての作品の見方、そしてそれのお客さんとの共有の仕方を考えることが出来る作品です。
また、他の合唱曲には、様々な解釈が出来て、いくつかの視点から取り組むことが出来るものもありますが、この作品は、すでに作品そのものが「楽しむ」という目標を提示しています。ですので教師が考えるのは指導法で、どのようにこの曲が持つ情熱を子どもたちに伝えるかを模索する必要があります。またこの曲は特に歌唱困難箇所が多い分、楽しんで演奏できるように、工夫した指導法を考えなくてはならないと思いました。
 
 
【事例研究】
金沢市立西南部中学校合唱部 顧問:稲垣潤一先生 
 
『美しい調性音楽をどのように響かせるか、正確な音程を取るための指導法』のついて取り扱っている動画を視聴しました。調性がはっきりとした曲の中では階名唱を用いることで、音の精度が上がり、ハーモニーも美しくなり、表現もよくなることや、ハンドサインを用いることでより音が正確になり、音の処理まで考えられるということが紹介されていました。
 
そして、『自分ならどのように指導をするか』ということを課題として小田さんから提示されました。正確に音程を取ることは非常に重要で、合唱をする上では外せない要素だと思います。ですが私自身は合唱経験が少なく、そのような指導法の引き出しが少ないことを痛感したので、まずはこのような動画や文献などを参考にしたり、他の方の経験談や意見を聞いたりしてどのような指導法が実際に行われているかを知りたいと思いました。また、私自身歌で正確に音程を取ることが苦手だったので、自分自身の経験と照らし合わせながら考えていこうと思います。
 
以上で今回の活動記録は終わりです!
大変長くなってしまったので、作品探求の項目ごとのまとめは今回カットしました。よびごえの皆さんは共有フォルダからワークシートをみて参考にしていただけると幸いです。
 
この勉強会の活動は毎回かなり濃密な二時間で、まとめようとするとこの文章量になってしまうほど(笑)学ぶことが多く、私は毎週とても楽しく参加しています。小田さんをはじめとして皆さん一人一人の経験や考え方を知ることができ、自分の知らなかった世界がどんどん広がっていくことがとても嬉しく感じています。
大学の前期の授業もようやく折り返し地点を過ぎたところで先は長いですが、元気に頑張っていきたいと思います。
 
次のよびごえ日誌は同じく二年生の堀切さんにお願いしようと思います。

今城