よびごえ日誌
2023.05.12
【2023】よびごえ日誌 vol.2
タグ:合唱祭
みなさん、こんにちは。小田です。
新体制最初の稽古を終えました。この日誌では、初回稽古に関する内容と、全よびごえメンバーへのメッセージを書きたいと思います。
新体制初の本番は、東京都合唱祭を予定しています。演奏曲は、以下2曲を小田の方で選びました。
『小さな目』より 「かめ」
詩:大しま あきひこ
曲:三善 晃
『木下牧子アカペラ・コーラス・セレクション』より 「さびしいカシの木」
詩:やなせ たかし
曲:木下 牧子
よびごえのメンバー1人1人が作品と向き合い、仲間と向き合い、自分と向き合い、ともに演奏を創っていけるような可能性をもった作品であること、そして、本番当日、演奏を聴いてくださる方1人1人とも「なにか」を共有できる作品であることを念頭に置いて、今回はこの2曲の組み合わせとしました。
初回稽古は、「かめさんデー」とし、「かめ」のみの稽古を行いました。時間の内訳は以下の通りです。
① 18:50頃~19:05 発声
② 19:05~19:20 「かめ」音の確認(女声と男声との2つに分かれて実施)
③ 19:20~19:50 「かめ」全体練習
④ 19:50~20:00 混声合唱曲『小さな目』について
⑤ 20:00~20:15 振り返り
①~⑤のうち、③、④について書いていきます。
③ 「かめ」全体練習
直前のパート練では、女声・男声の2つに分かれて実施したことから、全体練でも同様に、まずは女声、次に男声の歌い方の確認を行いました。(小節番号で示しますので、みなさんも次回稽古までに小節番号を振ってみてください。パート練でも役に立つと思います。)
-女声-
・1小節目「か」の発音について、「k」に力を入れすぎないこと。
「k」の子音は、
1.舌の奥と軟口蓋がくっついた状態から
2.両者が互いに勢いよく離れること
で発音されます。
「k」の子音を発音するときは、舌の奥と軟口蓋がくっつく必要があるため、口腔内は狭くなります(上の奥歯と下の奥歯との距離が近い状態)。一方で、「a」母音は口腔内が縦に広がる必要があります(上の奥歯と下の奥歯との距離が遠い状態)。つまりは、「か[ka]」を発音するためには、「k」で口腔内が狭くなった状態から、可能な限り速やかに口腔内を縦に広げる必要があることから、「k」の発音に力が入りすぎると、「a」母音に移行しづらくなり、「a」母音の質に影響が出やすくなります。「a」母音の音色をしっかり決めるためにも、これから先、「k」の子音を含む言葉を歌唱するときのためにも、↑で書いた仕組みも一緒に理解をしておきましょう。
・1小節目「ん」については、響きを残すようにしましょう。ソプラノとアルトとで完全5度を楽譜通りの長さ分伸ばすために大切です。
・3小節目「ない」の「な」ですが、「na」のうち、「n」の子音を「a」と同じピッチで鳴らすようにしましょう。「a」母音は正しいピッチで歌唱できていても、「n」の子音が直前のA、もしくはAからCの間でなんとなく発音されていると「な」でCの音がブレてしまうことにつながります。
・3小節目「ない」の「い」ですが、4小節目2拍目(男声がFとCになるタイミング)で「い」としましょう。(もしも「い」をすぐに発音すると、お客さんにはどんな日本語に聴こえるのでしょう?)
・和音を決める箇所を意識するようにしましょう。例えば、15小節目の最初の音(「た」)、最後の音(「じゃ」)など。今日、女声のパート練で大野さんもしてくださっていましたが、和声の転換点や、単純に音が分かりづらい箇所は、流れで歌って、該当箇所でロングトーンで止まってみるのは練習方法として有効ですね。
-男声-
・今回の本番では歌唱人数の観点から、楽譜中「M」で示される箇所は、もう少し声量が出やすい音にしたいと思っています。そこで今回の稽古では「U」母音をお伝えしました。しばらくは「M」は「U」に置き換えて一緒にやらせてください。
・テノールについては、ファルセットで歌えそうであれば、そうしてほしい箇所をお伝えしました。
>10小節目 G-Fis-E
>14小節目 えさを たべないじゃないか
これは、楽譜を分析的に見ていくことで分かってきますが、三善が、複数のパートをどのようなまとまりで書いたのか、ということを理解しようと努めると良いように思います。この作品の出だしは、ソプラノとアルト、テノールとバス、というように、女声と男声、それぞれの2部合唱になっていますね。一方で13小節目に目を向けると、ソプラノとアルトとテノール、そしてバス、というようなまとまりに代わっています。テノールが実声でしっかり響かせると男声としての存在感が出ますが、ファルセットで軽く響かせるとアルトやソプラノと響きが混ざりやすくなります。いま、テノールは男声としての声が求められているのか、女声合唱のベースを支える役割が求められているのか、そうしたことを楽譜から読み取り、発声を通して表現してみてください。
・バスについては、まずはじめは全体的に「硬め」に歌ってほしいと思っています。今回聴いた限りでは、発声や音感に特に大きな課題は感じませんでしたが、音と音の繋がり方については、さらに磨いていけるように思いました。「硬め」に歌ってみることで半音と全音の関係がより明確に感じられると思いますので、試してみていただきたいと思います。
女声・男声、それぞれの確認を終えた後、全パートで合わせて歌唱してみました。
全体的に音程に不安をもっているような声だったため、「自己中心で歌ってください」とお伝えしました。
当然のことですが、パートソロで歌うと、自分のパートの音だけに集中できます。パートが増えると、増えた分だけ、自分以外のパートの音が聴こえてくる中で、自分の音を正確に歌唱する必要があります。今回は「自己中心」という表現を使うことで、他のパートを聴くことよりも、自分がなるべく正確な音、リズムで歌うことに意識を向けてほしいと考えました。その結果として一時的に音量バランスが崩れたり、縦がずれたりするのはここでは問題としません。それは、この活動の目的が、自分以外のパートもいる中で、自分の音やリズムを可能な限り正確に歌唱することだからです。
今回の稽古はここで終わりましたが、次回以降は、和音やバランスをもう少し細かく確認していきたいですね。
一人で練習するときの方法も、自分なりの方法を開発できるようにしてみると良いかもしれません。昔話ですが、僕が高校生の時、当時はボイスレコーダーを買ってもらえてとても嬉しかった記憶があり、自分以外の声部をピアノで弾いて録音して、それに合わせて自分のパートを歌ってみる、という練習をひっそりとしていました。特に、三善の場合は、自分のパートだけだと問題なく歌唱できるけれども、他パートと一緒に練習すると面白いくらい歌えない、という経験がありました。それでも時間をかけ、全体の中で正確に歌えるようになり、また和音を聴く余裕が出てくると、なんとも不思議な心地よさがあったことを覚えています。
④ 混声合唱曲『小さな目』について
この曲集は、全国の小学生が書いた詩に、三善が曲をつけたものです。三好達治や立原道造、白石かずこ、谷川俊太郎など、たくさんの詩人の作品があったにもかかわらず、三善が目を付けたのが小学生が書いた詩であったこと、ここは一度立ち止まって考えてみるポイントなんだろうと思います。どうして三善は小学生が書いた詩に作曲することにしたのでしょう。
『小さな目』は13の詩による合唱曲集です。
そこで今回は「きょうたに たかし」さん(大阪)による「せんせい」、「松井 ゆみ子」さん(東京)による「先生のネックレス」等の詩を読み、さいごに「かめ」の詩を読んでみました。どの詩も、子どもの目にうつる世界の凝縮で、たわいもないように思えることでも、子どもにとってはとても不思議だったり、それが時には大人には理解できないような深刻さをもっていることもあります。僕も、みなさんも、かつては「子ども」だったわけですから(今もそうかもしれませんが・・・もちろん良い意味で)、本番に向けて少しずつ、この子たちのような世界の見方を取り戻していってくれるといいな、と思います(すでに準備万端の方はどうぞそのままで・・・)。
すごいものを見て、すごい!と思ったり、よく分からないけど感動できる心って、子どもの頃の方があったように僕は思います。この「かめ」を通して、あきひこくんから、子どもの心を分けてもらいたいと思います。
気が付けば、めちゃくちゃ長文になっていました。
さて、最後に、全よびごえメンバーへのメッセージです。
はじめに、1年生のみなさん、改めて東京学芸大学への入学をおめでとうございます。
僕は1年生だからここまでしかできないという限界は引きません。いけるところまで走り抜けてほしいと思っています。よびごえにいるメンバー全員があなたの学びを応援する仲間であり、僕もまたその1人です。まずは合唱という行為そのものについて、少しずつ考え始めていってほしいですし、良い合唱の演奏や、良い合唱活動というものが仮にあるとすれば、それはどんな内容なのか、具体的に考えてみてください。その先に、もしあなたが先生になったとき、子どもたちと一緒にどんな合唱をしたいのか、考えてみてください。
2年生以上のみなさん、新体制での初回稽古を無事に迎えられたこと、本当にありがとうございました。
みなさんに、とても感謝しています。
去年までは先輩がやってくれていた見えない仕事がたくさんあったこと、そしてその責任の重さにそろそろ直面している頃でしょうか。みなさんには、「それは〇〇さんの仕事だから私は関係ありませーん!」ではなく、積極的に協力しあうこと、困っていたら相手に合わせた寄り添い方を考え・行動すること、仲間をフォローしつつも自分もここで合唱を学ぶ1人なんだ、ということを忘れないでいてほしいですし、みなさんならば、きっと、今年らしいチームをつくり、それぞれが1人の学習者として、今年も学びきってくれると信じています。僕は先生ではなく、メンバーの1人です。なので、一緒に良いチームをつくりましょう。一緒に今年の学びをつくっていきましょう。
合唱について勉強すればするほど、求められる知識や技能の幅が広いことが分かってくると思います。
今回、丸さんが何気なくやってくださった発声練習。どんな声を目指すために、どの発声を、どういった順番で実施するのか、またどういう言葉かけをすると望ましい変化が得られそうなのか(発声)。
一人ひとりが自信をもって歌唱できるようになるために、どういったパート練習を行い、困った人がいればどういう個に応じた指導が望ましいのか(パート練)。
日本語の発音について、例えば、ある子音を発音するとき、実際の筋肉の動きはどうなっているのか(発音)。
詩を読み込むとき、どういった問いを立てれば、学習者が詩と向き合い、自分なりのアイデアをもって、また仲間との協働において自身の考えを深めることができるのか(解釈)。
他にもまだまだ、ハーモニーの決め方や指揮法、演奏作品が外国語の場合はその言語の知識も必要ですし・・・。
学校現場に出ると、授業に加えて、校内合唱コンクールといった行事、また入学式や卒業式といった式典など、1年中、合唱です。
ぜひ、たくさんのことを考え、壁を乗り越え、少しずつたくましくなって、将来、子どもたちとの合唱の時間を自分でデザインできるようになってほしいと願っています。
僕もみなさんとともに学べる時間を大切に、毎回の稽古を真剣勝負で頑張ります。
それでは、また次回の稽古で、元気にお会いしましょう!
良い週末を!