よびごえ日誌


2019.10.04 【2019】よびごえ日誌 vol.018
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学芸の木々は少しずつ黄金色になり、秋もすぐそこへと近づいてきました。なんと、学芸大学は未だ絶賛夏休み中でございます!私も教育実習に行ってまいりしたので、前回の稽古では約二か月ぶりにみんなと会うことができました。久しぶりに会うと、なんだか、みんなの顔つきが大人になっていました!大学院オペラに参加したり、帰郷して友達に会ったり、一人一人充実したいい刺激のある夏休みになったのかな。
 

 
さて、本日のよびごえでは、島崎藤村作詞、相澤直人作曲の『知るや君』を中心に稽古を進めました。
 
前半は、國元さんによる音楽稽古です。曲自体は2分弱ですが、スケールが大きく、オーケストラ的な響きを連想させます。この曲を16人で奏でるのには、豊かな響きと繊細な表現力が必要です。パートが重なる箇所の、語頭の発音をそろえたり、フレージングを試行錯誤したり。かと思えば、表現に熱中するがあまり、発声が崩れると、あれここの音程が違う…と一進一退です。おそらく、この試練の時間は、長く私たちについてくるのですが、この時間を無くして納得のいく演奏ができたことは、経験上一度もありません。急がば回れで、丁寧に進めることが、後々活きてくるのかもしれません。
 
 後半は、歌詞の解釈へと広がりました。佐藤さんの案で、パートごとに分かれて、歌詞について話し合いました。古文で書かれた歌詞を解釈するのには、時間がかかります。「一連からはじまり、最後に向けてだんだんと恋心が分かりやすく表れてくる。」「隠れてひそかに存在するものと、自身の隠れた恋心をかけている。」「もしかして告白がなかなかできないような人なのかな。」「『あやめ』は植物でもあるけど、『あやめもしらぬ』で『見分けもつかない』という意味になるので、ここは見分けもつかないくらい暗い夜となって、恋心の筋道が分からない様子を表しているのでは。」等、インテリな時間になりました。これらを踏まえ、一度曲に返ると、少し見えてくる景色が変わりました。冒頭のヴォカリーゼにかかる強弱記号の幅はどの程度なのか、全ての連に共通する『知るや君』はひとつずつどのように演奏されるべきか、どうして最後の連に当たる箇所は転調しtuttiになるのか、曲の骨格が以前よりはっきり見えてきました。
 
 音形やハーモニーだけにとらわれすぎると、歌詞を越えたオーバーな解釈をしてしまう時もあります。また、歌詞だけにのめり込むと、聞き手に伝わらない自己満足な音楽になってしまうこともあります。演奏時に一番バランスの取れる立ち位置を探すのに、私も毎回苦戦します。より多角的に曲を捉えることによって、自分自身と曲のバランスも自ずと取れていくのかもしれません。私たちはよく、歌詞と音楽の大きな二面だけで曲を分析していますが、もしかしたらもっと細かく分解することができるかもしれませんね。どこから曲を見るか、視点絶賛募集中です。
 
 ミーティングでは、「『情景を思い浮かべながら歌ってみよう』って音楽の授業でよくあるけど、はたして情景を思い浮かべることって曲に直接的な影響を与えるのかな。それを演奏に還元してこそ意味を成すのでは。」という、なんとも教育学部にぴったりな意見が出ました。まず、情景とは何ぞや。三省堂国語辞典第七班によれば、「事件やその場所などの、ありさま。」とのことです。面倒くさい性格でして、「ありさま」も調べました。「ものごとがどのようなものであるか、というようす。」だそうです。現在よびごえで取り組んでいる『知るや君』と『お母さん』の情景は、明らかに違う世界観を持っています。個人的な直感ですが、『知るや君』は青々しいにおいがするのに比べ、『お母さん』では線香のような何かが焼けるにおいがします。前回の『お母さん』の稽古で、「原爆を思い出す」との意見が出ましたが、これは私が感じる何かが焼けるにおいと共通する部分がありますね。歌詞と音楽が相互に影響しあって、私たちになにかしらの情景を連想させることは間違いありません。さて、どの部分がどんな情景をなぜ感じさせるのか、それと向き合うことができれば、私たちはどう演奏したいのか、自然と見つけ出すことができると思います。濃い芸術の秋になりそうですね。みなさんは、『知るや君』どんな情景を思い浮かべるでしょうか。最後に歌詞を残しておきたいと思います。
 
 次回のよびごえ日誌は、歌もピアノもホルンもできる!マルチな伊藤さんに頼みたいと思います!実は彼女とは、なが~い付き合いで、中学生の時には隣でホルンを吹いていました。来週のよびごえ日誌もお楽しみに!

名嘉眞

「知るや君」(『若菜集』より)
        島崎藤村
 
こゝろもあらぬ秋鳥の
聲にもれくる一ふしを
        知るや君
 
深くも澄める朝潮の
底にかくるゝ眞珠を
        知るや君
 
あやめもしらぬやみの夜に
靜にうごく星くづを
        知るや君
 
まだ弾きも見ぬをとめごの
胸にひそめる琴の音を
        知るや君