よびごえ日誌


2024.09.01 【2024】よびごえ日誌 vol.10 夏休み番外編
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みなさん、こんにちは。夏休み番外編2度目の小田です。
8月28日に、青森県つがる市内の某中学校にて、合唱の授業をさせていただいたため、記録として残しておきたいと思います。
 
最初にご連絡をいただいたのは、今年の5月中旬、合唱指導を頑張りたい!という音楽科の先生からのご連絡でした。昨年からご相談を受けており、女声の先生なのですが、当時は特に男声への指導に悩みがあるとのことでした。各学年1学級で、今回は、それぞれの学年での授業を1回ずつ持たせていただきました。今回は、全学年に対し、「基本的な発声を学ぼう!」というテーマで授業をしてほしいとのことでした。
 
第一印象として、どの学年も、話を聞く態度、言われたことに挑戦してみる姿が素晴らしく、めちゃくちゃ授業しやすかったです。
 
中学生を教えるとき、特に部活動ではなく、授業での指導を行うときは、当たり前ですが、様々な生徒がいることを前提として、指導を行います。例えば、そもそも音楽が好きではない子(自分からは音楽を頑張れない子)や、好きだけれども目立つことは避けたい子、先生の話が長いと情報が頭に入ってこない子、反対に、ものすごく音楽が好きな子、これをもっと頑張りたいという意識がはっきりしている子などです。
 
授業の鉄則である、
 無駄なことは話さない
 大事なことは短く・簡潔に
 時間配分は計画的に
を守りながら、あとは子どもたちの表情や反応を見ながら、授業を行いました。
 
発声について、細かく話せるネタはたくさんありますが、大事なことは、「1回の授業で」「何をどこまで伝え、できるようにするか」、ということだろうと思います。知ってることは何でも伝えるのが良い先生ではありません。伝えるだけ伝えて、できない、というのは、「何ができるようになった授業なのか」分からないからです。
教育介入は、介入した成果(何ができるようになったか)がポイントになってきます。
今回は、多くの場合に改善がみられる「発声のポイント」とその実践を、生徒と、音楽科の先生にもお伝えできることをねらいとし、特に、生徒だけでも自主的にすぐに実践できる内容にしたいと思って、考えました。
 
発声のポイントは、発声練習をしながら、以下を1つ1つ順番に伝えていきました。
 1.姿勢
 2.口の開け方
 3.ブレス
 4.息のスピード
(5.調音ポイント)
 
ドレミレドーの発声をa母音で行い、半音ずつ上がり、途中から下がってくる、という一般的な発声練習を用いながら、「(これまでに)先生に教えてもらった正しい姿勢になっているかな~?確認してみよう。その姿勢が崩れないように意識しながら発声練習をするよ」というスタートから、いくつか発声を進めると、「姿勢はみんな大丈夫そうだね。これから1つ1つ、新しいことを伝えていくよ。まず、口の開け方なんだけど、奥歯と奥歯の間を 2cm 開けるとすごく声が変わるんだよ。みんな、2cmってどれくらいかな?手でやって見せて。お、みんな2cmってだいたいそれくらいだよね。それをそのまま奥歯の横に持っていって、その幅の分、口を開けられるかな?そうだね、すごい口を開けるんだね。僕も2cm開けてみると、しゃべっている声もこんなに変わるんだよ!みんなも、2cm開けた状態の声のまま歌えるかなぁ?やってみよう。」という具合に、発声練習を進めながら、1つ1つ、ポイントを伝えていきました。まず、覚えてほしい、感じてほしかったのは、奥歯と奥歯を開けると声が変わる、ということでした。2cmというのはあくまでも例です。科学的な根拠があるわけではありません。ただし、1cmでは狭く、あんまり音色も変わりません。3cmだと、特に中1の場合、顎に負担がかかる危険もあったためNGと判断しました。2cmは、ちょうどよさそうな数字として選んだものです。
 
ブレスについて、鼻から吸うことは、先生からすでに指導がなされていたため、鼻からの吸い方が2種類ある話をしました。勢いよく吸って、ノイズが鳴る吸い方を示し、マネをさせる活動から、つぎに、ノイズが鳴らない、静かなブレスをマネさせました。その両方が全員出来ることを確認したのちに、ノイズが鳴る方は、実は息はたくさん吸えないこと、ノイズが鳴らない静かなブレスはたくさんの息が吸えることを説明し、歌には、静かなブレスが良いことを伝えました。
ブレスについてはもう1つ、時間をかけて吸おう!ということを伝えました。肺に空気をためておくことは、歌のもっとも基本的なことであり、酸素の量が無ければ、長いフレーズを歌うことはできません。指導の場では、一瞬で吸うのではなく、2秒かけて吸おう、ということを伝えました。これも、僕がブレスを目の前で例で見せて、一瞬で吸うバージョンと、2秒かけて吸ったバージョンの違いを理解してもらおうと努めました。
発声練習の中で、1フレーズ歌い終わると「はい、もう次のブレスのこと考えるよー。2秒吸えてるかなぁ?」「どこかで鼻が狭いブレスの音がするよー 静かなブレスを意識するよー」と、声掛けを行い、自分で意識できるように働きかけました。
 
ブレスについて、おおよそ全員が意識できるようになってきたら、次は息のスピードの話をしました。
リコーダーの例を出し、「リコーダーの低いドの音と、高いドの音はどちらが出しやすかった?」と質問してみると、だいたいどの学年もありがたいことに「低いドの方が息が難しかった」と答えてくれ、「低い方が息をゆっくりにする必要があったから、息のコントロールが難しかったんだね。」という風に、「息のコントロール」というキーワードを出しながら、低い音は息がゆっくりで、高い音は息が速いことを伝えました。これはフルートやトランペットといった、息を用いる楽器であれば共通したものであること、そして人間の声も共通していることを伝えました。「高い音が苦しくて出ないという人いる?」と質問すると、何人かは手を挙げてくれ、「もしかすると、これができるようになるとつらくなく高い音が出るようになるかもよ?」と学びの展望についても触れながら、進めていきます。
右手でも左手でも良いので、人差し指を鼻に当て、ゆっくりした息の場合は、人差し指に当たる息が温かく、ノイズが小さいことを全員で確認します。その次に、速い息の場合は、ノイズが大きいことを全員で確認します。その次に、ゆっくりした息からはじめてだんだんと息が速くなる(小さいノイズからだんだんノイズが大きくなる)練習をし、その後に、強いノイズがキープされる練習を行います。全員で練習をするときは、ブレスは2秒かけて吸うことを思い出させながら実施します。
ここまでできたら、息のスピードと声の関係について説明します。ゆっくりした息の場合は、柔らかい声になるが、速い息の場合は、最初から強い音が鳴ることを、実際に声を出しながら説明します。ここで、ポイントとなるのが息は速いのに、声が柔らかいという誤ったパターンを先に見せておくことです。僕の経験上、これを説明せずにやると、ぐちゃぐちゃになったり、説明に余計な時間がかかることが多いです。今回も最初から例としてそれを示すと、「息のスピードと声がなんか違う」ということに気づいてくれ、自分がやるべきことをより細かく理解してくれた様子でした。
ここまで説明したらば、まずは人差し指を鼻に当て、速い息で勢いを持続させる練習をし、その次にすぐ、その速い息の使い方のままドレミレドーをa母音で歌う発声で歌ってごらんと言い、進めていきます。1発目でうまくいく学年もあれば、どうしても、歌になると息が弱くなる学年もありましたが、大事なのは、違ったらすぐに止めることと、「僕に聴こえるのはこんな感じだよ」と、マネをして返すことです。マネをすると、「あ、たしかに息を速くしたいのに、歌になると違ってた」と気づいてくれます。それを繰り返していき、良かったものがあれば「それだね!」とすぐさま伝え、「これでいいのか!」という安心感を生徒に与えながら、正しい体の使い方が連続的にできるようになるまで見守ります。そうして、ある程度息のスピードが意識できるようになれば、復習も兼ねて、「奥歯と奥歯2cmあいてるかな?」「ブレスは音がしないで2秒吸うよ」「姿勢は大丈夫かな?」と声をかけていきます。
 
1,2年生は、ここまでがだいたい20分でできました。
できたところで、復習をします。僕からさんざんキーワードを聞いていたからか、「発声のポイント、大事なことを復習するよー。奥歯と奥歯の間は?」「2cm!」「ブレスの時に音はする・しない?」「しない!」「ブレスは何秒?」「2秒!」「息のスピードは速い・遅い?」「速い!」と、本当に、ぽんぽんと2つ返事ですぐ返してくれました。
この後は、各学年ごとに異なる合唱曲に取り組んでいたため、それぞれの曲でもこれらの発声が意識できるか応用していく時間にしました。
 
3年生は、声がそもそもよく響いていたのと、上記が15分くらいでできてしまったため、調音ポイントというプラスアルファの話と実践をしました。私たち人間の楽器としての不思議と、「響く場所をイメージする」ことで大きく声が変わることなどを、鼻腔の奥のポイントを実際に生徒と共有しながら進めていきました。なかなか、これは言葉として書くのが難しいため、省略しますが、声がどんどん変わっていき、つがるの子たちは、やっぱりいい声をしているなぁと感動しました。
 
音楽の先生が、普段から「振り返りシート」を毎授業で書かせていたことから、授業の最後は振り返りシートを書く時間を取りました。のちほど全学年分見せていただいたのですが、今日僕が伝えたことを、多くの生徒が振り返りシートに書けていました(とっても安心しました)。
 
声楽を教える場合、先生のいい声を聴かせ、鼻の前の方で響かせるんだよ、マスケラ!、アペルトして、ジラーレだ!、というのは本当にいろんな現場で耳にしますが、決してそれらを批判するわけではありませんが、場合によってはそれらが言葉遊びになってしまい、ジラーレという言葉は知っていても、できないという教育をしてしまっていないか、そこには常に反省的になる必要があると思います。かえって、僕の今回のやり方は、見方によっては陳腐で、声楽の本質を何も伝えていないということもあると思います。
ただ、今回の授業の条件として僕が介入できるのは1回だけであり、だからこそ重視したのは、その1回で、明日も生徒が教師の力を借りずに自ら復習でき、生徒によってあまり理解に差が出ない知識と感覚を提供することでした。奥歯を2cm開けることは、生徒によって差が出づらいと思いますし、2cm開ける前と後とではサウンドが異なることは多くの生徒が理解できる感覚に思います。一方で、例えばジラーレという言葉は、まず言葉の意味が分かる子と分からない子で分かれると思いますし、正しくジラーレができている状態を運よく掴めたとしても、それは、ブレスの仕方や、鼻腔の広がりとキープ、息の回し方などがすべて正しく嚙み合った瞬間的な状態であるため、生徒によっては、そのどこかだけを切り取って覚えてしまった場合、先生の指導があればうまくできても、一人でやるとなんかうまくできない、という状態になってしまいます。僕がずっとそばについていれるならばそれは問題のない指導(むしろ素晴らしい指導)に思いますが、1回しか介入できない状態で、そうした指導をする場合、音楽科の先生にも迷惑が掛かりますし、生徒は「よく分からなかった」で終わってしまう、無責任な指導に陥ってしまう危険性もあります。
 
1回限りの限定的な介入における、中学校の全学年を対象とした発声指導の記録を残しましたが、数年後、また僕の考えも変わるかもしれません。いつの日かのための記録として、書きっぱなしの文章を残しておきます。
 
最後に、中学校の帰りに見た景色が美しかったため、写真も残しておきます。
授業後に、声に関する悩みを話してくれた子や、もっと上手くなりたいと話してくれた子の生き生きとした顔は、全国、いろんな中高生を見ていても一緒だなと思います。輝く何かを感じますし、もっとこの子たちと一緒にいたいと思います。心底ヘロヘロになって帰路につくわけですが、それでも、音楽の先生と授業の振り返りをしたり、次の授業ではこんな復習や発展をするのはどうかとアイデアを交換する時間はいつも、子どもたちの顔や声が頭にあり、「疲れてるけど楽しい」、そんな感覚です。
しかし、この日の夜は22時には寝てしまいました。初めての子どもたち相手に僕も緊張してたんだと思います。次はいつ、あの子たちに会えるのだろうか。とっても楽しみだなぁ。また、元気に会えるその日まで!
 

 

 

小田直弥